Joseph Boulogne, Chevalier de Saint-Georges(黒いモーツァルト?)

香港フィル「The African-American Experience」は、アフリカ系アメリカ人の歴史についての大変興味深いレクチャー・コンサートでした。大学の先生に専門分野の話をさせるのは危険だ。熱い語りが終わらない。

アフリカ系アメリカ人のクラシック作曲家といえば、スティル(William Grant Still)が比較的有名です(と言いつつ、今回初めて聴きましたすみません)。このスティルの代表作「アフロ・アメリカン交響曲」は、コンサートの2番目に演奏されました。

スティルより前、コンサートの最初にまず紹介されたのが、18世紀フランスの作曲家ジョゼフ・ブローニュ・シュヴァリエ・ド・サン=ジョルジュ(Joseph Boulogne, Chevalier de Saint-Georges)

Joseph Bologne, Chevalier de Saint-Georges

ジョゼフ・ブローニュの肖像画

コンサートの主題は米国だったためブローニュの紹介は短かったのですが、それが非常に印象に残ったので、後で自分で調べてみました。18世紀のヨーロッパに、マリー・アントワネットやモーツァルトと関わりのあった著名黒人作曲家がいたということに驚きました。

アメリカ合衆国第2代大統領ジョン・アダムスが「ヨーロッパで最も偉業を成し遂げた人」と評したジョゼフ・ブローニュ。グアドループ島の地主と奴隷女性の間に生まれた混血で、幼少の頃からフランスで音楽教育を受け、バイオリニスト、指揮者、そしてフェンシングの名手として高く評価されていたようです。

同時代の作曲家であるからか、現在は「Black Mozart」とも呼ばれているようです。

しかし、果たして、この別名「黒いモーツァルト」は適当なのか。

モーツァルトのオペラ「魔笛」には、モノスタトスという悪役が出てきます。


差別的な設定が問題視される登場人物なのですが、このモノスタトスを生んだのは、モーツァルトの人種差別ではなく、パリで出会った黒人のライバル、ブローニュへの個人的恨み(やっかみ?)だったかもしれません。

参考:Chevalier de Saint-Georges: The man who got under Mozart’s skin (The Independent)

モーツァルトはパリが大嫌いだったのですね。

評価されないわ、頼りのお母さんは亡くなるわ、散々な目にあったようです。そんなどん底のモーツァルトと同じ邸宅に滞在していたのが、王妃マリー・アントワネットの取り巻きとして宮廷で名を馳せていた黒人作曲家ブローニュでした。

今回の香港フィルのコンサートではブローニュのバイオリン協奏曲が演奏されましたが、黒人音楽の気配は感じさせず、いかにもあの時代の宮廷音楽でした。それはモーツァルトというよりも、優等生ぽいサリエリの印象に近いような。1楽章聴いただけの感想ですからあてになりませんが。

とにかく、当時のモーツァルトは失意と共にパリを去り、後にザルツブルグの友人シカネーダーと共に作ったのが「魔笛」でした。パリ時代の(全然勝ち目のなかった)宿敵ブローニュへの鬱憤を、モノスタトスというキャラクターに込めたのかも。

一方のブローニュ。奴隷女性を母にもつ有色人種でありながら、パリで英才教育を受け、文武両道で、きっと洗練された紳士だったであろう(これは私の想像)ブローニュは、どんな気持ちでフランス革命前後の時代を生きたのでしょう。後ろ盾のマリー・アントワネットがギロチンの露と消え、不遇の晩年を過ごし、54歳で亡くなっています。当時としては長寿な方?音楽への情熱は晩年も続いていたようです。

この他にレクチャー・コンサートで紹介された曲では、DJ SpookyことPaul D. MillerによるRebirth of Nationのライブ・パフォーマンスもなかなかレアでした。KKKのプロパガンダ映画を皮肉ったもの。なんとなくDJ Spookyってオノ・ヨーコっぽいアーティストだと思いました。

2017年2月24日
The Hong Kong Philharmonic Orchestra
Swire Classic Insights
The Afrircan-American Experience
香港大学にて

指揮:Jung-Ho Pak
語り:Professer Derek Collins
DJ:DJ Spooky
スペシャルゲスト:Anthony Paul de Ritis
バイオリン:Leung King-fung

<おまけ1>
BBC Radio4の番組
In Search of the Black Mozart

著名なダブルベース奏者のChi-chi Nwanokuが探るブローニュの人生。(2015年)

<おまけ2>

Tafelmusik: Le Mozart Noir

デザインが素敵なTafelmusik: Le Mozart Noir

<おまけ3>
差別の世界では、黄色い女性である私は最下部にいるのでしょう。私はリベラルな世界でないと生きていけませーん。